『ダイバーシティ:生きる力を学ぶ物語』山口一男、東洋経済新報社、2008
目次は、次の三つだけです。(目次からしてユニーク)
●六つボタンのミナとカズの魔法使い:社会科学的ファンタジー
●ライオンと鼠:教育劇・日米規範文化比較論
●あとがき
社会学者の著者は、囚人のジレンマや予言の自己成就などについて、理論解説から始めるのではなく、まずファンタジーの世界に誘ってくれます。
ミナという主人公がカズに会うまでの道中で、いくつかの関門を通過するのですが、その関門で考えたり向き合ったりすることが、主人のジレンマだったり予言の自己成就だったりアイデンティティだったりします。
いやあ、実に面白い構成の本です。
(解説は、ファンファジーを読み終えてからなされます)
解説を読まなくても、ファンタジーとして読むだけでも楽しいです。
そして、まったく話が変わり、
イソップ物語「ライオンと鼠」を題材に、著者である教授が米国の学生たちに日米文化比較の講義をするという設定で、学生同士のやりとり、学生と教員とのやりとりを描写します。
そこでは、日米における道徳観の違いが議論され、内的論理を説いていきます。
これも、実にユニークな構成です、多文化理解が進みます。(日米だけですが)
「ダイバーシティ」というタイトルは、
今日においては、女性リーダーの登用とか、障害者雇用とか、非正規社員の賃金問題などを想起させます。
しかし、基本的なダイバーシティの本が、こんな身近にあったんだなあと、書架に眠っていた本を読み終えて、感じ入っている次第です。