スザンヌ・ゴードン(著)、勝原裕美子、和泉成子(翻訳)日本看護協会出版会 1998年
<看護大学の助手時代に手がけた初めての翻訳本>
とても思い入れのある本だ。
月刊「看護」創刊50周年記念出版にしたいと、
佐藤信也編集長(当時)から原著を手渡されたときには、出版予定日までの行程がぎりぎりだった。
読み始めてすぐに、これは日本でも読まれるべき本だという確信を抱き、毎日8-13ページずつ翻訳するノルマを課した。
英文科を出ているが、英語に堪能なわけではない。
語学能力に挑む日々だった。
だが、最終的に気がついたのは、翻訳には英語の能力以上に日本語の能力が必要だということだった。
単語がわからなければ辞書を引けばよい。
でも、著者に成り代わって訳すときには、スザンヌが伝えたいと思っている魂の部分を前後の文脈を考えながら言葉を選択しつなげなければならない。それが、なんとも面白くやりがいのある作業だった。
本書に登場する3人の看護師は、日本でいうところの認定看護師や専門看護師だ。
当時は、日本でもそれらの認定制度ができたばかりで、看護のスペシャリストがどのようなアウトカムを出せるのかイメージをつけづらい時期だった。
3人が、科学的知識と技と思いやりをもって織りなすケアのタペストリーは、スザンヌ・ゴードンによって可視化され、看護が社会になくてはならないものであることを誰にでもわかるように知らしめた。
ただ、その後スザンヌから聞いた話では、マネジド・ケアという米国の医療政策の中で看護師のアウトカムに価値を置かない医療経営者たちによって、彼女たちは病院を追い出されることになった。
あのときの、なんとも言えない悔しさは、今でもはっきり覚えている。