映画「つつんでひらいて」

投稿者: | 2020年3月5日

装幀家、菊地信義さんの仕事を追ったドキュメンタリー映画。
デザインを四六時中考え、
考えたことを、一つ一つ手で探りながら表現していく菊池さんの様子に息をのんだ94分だった。

私は、
さわり心地がまったくない電子ブックに馴染めない。
文庫本より、重くても装幀された本が好き。
装幀が汚れるのが嫌で、さらにその上にカバーをかけて読む。
読後は、そのカバーをはずして本の全体をながめ並べて背表紙を楽しむ。
すでに本が増えすぎて、そうとばかりは言えなくなったけれど・・・
そういう人です。

そういう人が、この映画を観て、
ああ~、私が大事にしてきたかったことは、
”本は生きている”という感覚だったのかなあと思った。

内容だけではなく、
その内容を全力で支持する字体とか、ページ余白とか、しおりの色とか、紙の厚みとか、そう、表紙のデザインとか色とかを含めた”総体としての本”。
そんな本に出会えた時、いつも幸せだなあと感じる。

生きている本のある機能を担っているのが装幀なのかなあと、
たとえば、次のような言葉を
暗い映画館の中でメモしながら、思った。

「自己模倣から抜け出したい」
「同じことをしていたら苦しくなる」

「”こしらえる”がデザインの訳にふさわしい」
「デザインって、誰かのために何かをすること」

「ことばは人間を相手にしてくれない」

今、研修をデザインしたり、執筆したりすることが多いので、
とても響く言葉だった。

〔余談〕

作家の古井由吉さんは、私がこの映画を鑑賞する10日前に亡くなられている。
菊池さんが、大半の著書の装幀を手がけていることをまったく知らずに映画を観ていたら、スクリーンには、古井由吉さんが何度も登場した。
多くは語られないけれど、菊池さんの仕事を信頼しきっている様子が伝わる。
すばらしい作品を生み出す上で、互いに欠かせない存在がいるのは幸せだなあ。
ご冥福を心よりお祈りいたします。

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