川端眞一著 ミネルヴァ書房 1999年
拙著『組織で生きる』を献本させていただいたら、
「勝原さんには、この本はどうでしょうか」と川端さんが、ご自身の著書をくださいました。
タイトルからして、難しいサイエンスの内容だったらどうしようと思い、
恐る恐る読み始めたのだけれども、
これがまた、どうしようもなく、本当に私にぴったりの本でした。
著者の川端さんは、今は私と同じく病院の顧問をされていますが、
40年近く、新聞記者をされてきた方です。
自らに染みついた記者としての行動規範が、世間一般からみて常識なのかどうかを疑いながら、でも疑ってしまったら記者としてやっていけないという「揺れ」が、随所に書かれています。
たとえば「独自ダネ」を得るために他社を出し抜いたり、相手のプライバシーを顧みないことなどです。
福井謙一博士の容態が思わしくないことをいち早くキャッチした著者が、
何を書こうかと思い悩んだ際の描写は次のようになされています。
「私は、何を心配しているのだろう。新聞記者としての自分なのか、
博士の健康を気づかう一個の人間としてなのか」(p.205)
まさに、組織で生きることに悩み惑い、その中で選択していく過程での心の声が、すぐそばで聞こえてきそうな、そんな臨場感をもたらしています。
さらに、おもしろいと思ったのは、
新聞記者の生活であり、新聞が作られていく過程です。
エスノグラフィーと自叙伝とドキュメンタリーをミックスさせたような筆使いから、目の前で著者が新聞を作っていく様子が見えてくるのです。
今日、著者の川端さんとランチを一緒にしました。
「いろいろあったけど、楽しい記者生活でした」という言葉は、
むしろ、ただいろいろあっただけではないということを言外に匂わせるようでしたが、それ以上に伝わってきた充実感に、私は川端さんという方の大きさと美しさを感じました。
(ご本人には、そのようにはお伝えできなかったので、この場を借りました)